あなたは、脳梗塞を患った家族に対し、
- 脳梗塞を患った家族が最近、怒りっぽくなった気がする
- どうして怒りっぽくなったのか知りたい
- 脳梗塞を患った家族に対して、どのように接すればよいか知りたい
とお悩みではありませんか?
脳梗塞をきっかけに怒りっぽくなり、人が変わってしまったように思えて、戸惑ってしまいますよね。
脳梗塞などの脳血管疾患や脳損傷をきっかけに怒りっぽくなった場合、「高次脳機能障害による社会行動障害」が疑われます。
高次脳機能障害とは記憶、言語、思考など人間特有の脳機能が障害されることです。
感情コントロールが難しくなり、易怒性(いどせい)と言って、怒りっぽくなったり、暴力的になったりします。
目に見える障害ではないため、周囲から誤解され、社会生活に問題が生じることもしばしばです。
社会行動障害では、家族や周囲の人が適切な対応を取る必要があります。
なぜなら、適切な対応をしないとさらに症状が悪化し、家族も疲弊してしまうリスクがあるためです。
そうならないように、正しい対応の仕方や、対策を知り、少しずつ実践してみましょう。
この記事では、
1章で脳梗塞で怒りっぽくなる理由は高次脳機能障害が原因、
2章で脳梗塞で怒りっぽくなる原因や治療法、
3章で脳梗塞で怒りっぽくなった家族への対応6つ、
4章で脳梗塞で怒りっぽくなった当事者の気持ち、
5章で脳梗塞による高次機能障害を持つ方への支援制度について、詳しく解説します。
この記事を読んで、脳梗塞で怒りっぽくなった本人に適切な対応を取りましょう。
1章:脳梗塞で怒りっぽくなる理由は高次脳機能障害が原因
脳梗塞は、脳のどの部位が損傷を受けたかによって、後遺症が異なります。
脳梗塞発症後に怒りっぽくなる理由は、脳の前頭葉に損傷を受けて起こる「高次脳機能障害」による、社会的行動障害が原因です。
1-1:高次脳機能障害とは「目に見えない障害」
高次脳機能障害とは、脳の前頭葉という部位にある、記憶・言語・思考などの人間特有の脳機能が障害されている状態です。
一見何も問題なさそうに見えるのが特徴で、「目に見えない障害」とも言われます。
ゆえに誤解されやすく、かつ本人にも自覚がないため、家族の負担にもなりやすい障害です。
社会復帰をして環境が複雑化してから症状が目立ってくることもあります。
1-2:高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害は主に以下の4つに分類されます。
- 社会的行動障害
- 注意障害
- 記憶障害
- 遂行機能障害
以下、それぞれ説明します。
1-2-1:社会的行動障害
社会的行動障害とは、感情や行動を制御するのが困難になった状態です。
怒りっぽくなる原因として挙げられます。
例
- 突然怒りだしたり、泣いたりする
- 子どもに返ったように依存する
- 相手の立場や気持ちが理解できない
- こだわりが強く、他者の意見を聞かない
- 手元にあるお金をすべて使ってしまう
- 盗みやセクハラなど、社会的倫理に反する行動をする
- 人に指示されないと動けない
- 抑うつ傾向になる
社会行動障害は、対人関係や社会生活に大きな影響を与えます。
また、それによって家族への負担も大きくなってしまいます。
1-2-2:注意障害
注意障害とは、集中力を持続させるのが難しい状態です。
例
- 気が散りやすい
- 1つのことを終わらせるのに時間がかかる
- 話についていけない
- ボーッとする
- 物をなくす
1-2-3:記憶障害
記憶障害は、記憶することや、記憶したことを必要なときに引き出すのが難しい状態です。
例
- 自分や人の言ったことを忘れる
- 予定や約束を忘れる
- どこに片付けたかを忘れ、物をなくす
- 同じ間違いを繰り返す
1-2-4:遂行機能障害
自分で計画を立てて行動したり、結果から行動を修正したりするのが難しい状態です。
遂行機能障害だけで出現するのではなく、注意障害・記憶障害などと関連しています。
そのため、他の障害とあわせて対応する必要があります。
例
- 優先順位がつけられない
- 指示がなければ行動できない
- 間違いを修正できない
- 臨機応変な対応ができない
- 金銭管理ができない
2章:脳梗塞による怒りっぽさへの3つの治療法
高次脳機能障害は、援助が受けられる入院中は目立たず、社会復帰後に目立ってくるという特徴があります。
高次脳機能障害が疑われる場合は、早急に治療を開始することが症状の改善につながります。
社会的行動障害への治療法は、以下の3つです。
- リハビリテーション
- 認知行動療法
- 薬物療法
以下、それぞれ説明します。
2-1:リハビリテーション
どのような場面・きっかけがあって問題行動を起こすのかを検査し、感情のコントロールができるような働きかけを行います。
リハビリテーション中心となりますが、社会的行動障害の場合、「すぐに怒ってしまう」という理由でなかなかスムーズに進まないことも多いです。
2-2:認知行動療法
物事の捉え方を整え、ストレスを軽減し、行動を変えていくという心理療法です。
高次脳機能障害の方でも理解しやすいように、イラストなど直感的にわかるようなツールを用いて行います。
社会的行動障害だけでなく、うつ病などの精神疾患にも効果があるとされる治療です。
2-3:薬物療法
社会的行動障害において確立された薬物療法はありません。
しかし、他者への暴力が目立つ場合や、幻覚や妄想などの精神症状、うつ状態、気分障害については薬物療法が有効な場合もあります。
少量から始めて、症状にあわせて、ゆっくり増やしていきます。
3章:脳梗塞で怒りっぽくなった家族への対応6つ
脳梗塞で怒りっぽくなった家族への対応法をいくつか紹介します。
基本的には怒ってしまう原因や傾向を掴んで排除することと、明確に伝えることがポイントです。
高次脳機能障害とは今後長く付き合っていくことになります。
悪いところを注視するのではなく「今ある力を活かし、新しい習慣を身につける」といった考え方が大切です。
無理なく少しずつ取り入れ、最善策を探していきましょう。
3-1:怒ってしまう原因に近づけないように工夫する
怒るのは原因があります。
怒ってしまう原因の場所には行かない、原因となっている人と会わないなど、原因を排除することで落ち着く場合があります。
例
- ある特定の人がいるとき → その人には近づけないようにする
- 夕方や夜に怒ることが多い → 疲れていると考えられるため、十分に休息させる
- 人混みが多い → 人の少ない静かな場所で過ごせるように工夫する
3-2:曖昧な表現をしない
曖昧な表現によって誤解や混乱を招き、怒ってしまうこともあります。
正しく伝わるように、以下のことに気をつけましょう。
- 情報は短く、要点を確実に伝える
- 本人にとって理解しやすい方法で伝える
例
- 字で理解しやすいようなら、紙などに書いて要点を伝える
- 実際にやってみることで理解しやすいようであれば、事前にシミュレーションをする
3-3:思いを受け止めつつ、不適切な部分ははっきり指摘する
怒っているところに怒ってしまっては逆効果です。
冷静に、客観的に伝えるようにしましょう。
また、病識の欠如がある場合、「病気だから仕方ないよね」などの同情や共感の言葉は避けましょう。
なぜなら、曖昧な立場や態度によって混乱してしまい、怒ってしまう原因となる可能性があるからです。
3-4:見通しを立てやすいようにする
臨機応変な対応が難しく、急な変更によって怒ってしまう場合もあります。
そのため、今後の予定をわかりやすく伝えるようにしましょう。
高次脳機能障害では、記憶障害により忘れやすい場合もあります。
その場合は、見える場所に大きく書いておくと目に入り、思い出しやすいです。
3-5:信頼できる第三者をつくる
家族だと素直に聞けないこともあるため、高次機能障害であることを理解してくれて、かつ信頼できる第三者がいると助かります。
3-6:安全を確認のうえ、適度に距離を置くことも大切
本人も辛い思いをしていますが、家族も大変です。
疲れ果て、家族が倒れてしまっては元も子もありません。
頑張り過ぎず、ときには距離を置いてしっかりと休息しましょう。
4章:脳梗塞で怒りっぽくなった当事者の気持ち
病識の欠如はあっても、後天的な障害ゆえの思いを抱えています。
参考としていくつか紹介します。
- 以前のようには物事に対処できず、イライラし怒りっぽくなりました。
- 会話についていけなくなり、状況も読めなくなり、友人が去っていき、とても孤独です。
- 突然障害者になって、障害者としてみられる自分に戸惑っています。
- 私の状態に家族が混乱と悲しみを感じていることはわかっています。
5章:脳梗塞による高次機能障害を持つ方への支援制度
高次脳機能障害によって、本人・家族はこれまでとは違う生活を余儀なくされます。
社会復帰や経済的負担への不安が出てくることもあるでしょう。
そのため、受けられる支援制度について知り、積極的に活用することをおすすめします。
5-1:高次脳機能障害支援拠点機関
高次脳機能障害の方に対する支援体制の確立を図るため、全国に設置されています。
【参考】
http://www.rehab.go.jp/brain_fukyu/soudan/
窓口に相談することで、以下のような支援が受けられます。
- 高次脳機能障害の診断・評価
- 高次脳機能障害の治療
- 生活の相談および支援(デイケア、生活訓練、就労訓練など)
- 復職・復学・就職の支援
- 制度利用の相談および支援
5-2:高次脳機能障害の方への社会保障制度
高次機能障害の方への社会保障制度10種類を、簡潔にまとめました。
①障害者手帳
手足の麻痺や、失語症がある場合、対象となります。
②精神障害者福祉手帳
高次脳機能障害は「器質性精神障害」に該当します。初診日(脳梗塞で初めて医療機関を受診した日)から6か月を経過してから申請できます。
③高額療養費制度
1か月で同一医療機関において一定を超える医療費となる場合、申請することで限度額を超えた額が返ってくる制度です。
医療機関からもらった領収書は大切に保管するようにしてください。
④自立支援医療制度
高次脳機能障害によって精神通院医療が必要になった場合、申請することで精神医療機関の自己負担が1割にできる制度です。
⑤障害年金
年金保険料を一定期間納めているなど、一定の条件を満たせば高次脳機能障害は障害年金受給対象になります。
⑥労働者災害補償制度
業務災害(就業中に業務が原因となって発生した災害)または、通勤災害により高次脳機能障害となった場合に支給されます。
⑦傷病手当金
病気やケガのため会社を休み、給与をもらえない場合に、給与の3分の2が1年半支給される制度です。国民健康保険加入者は対象外です。
⑧生活保護
生活に困窮する方の生活を保障する制度です。
加えて、障害者だけに加算される障害者加算があります。
⑨介護保険
65歳以上の方で、介護が必要と認定された場合はさまざまな介護サービスを受けられます。また、40歳から64歳までの人でも、脳血管疾患は特定疾病に該当するため、利用できる可能性があります。
⑩障害者総合支援法
障害者手帳と、高次脳機能障害を証明する診断書があれば障害福祉サービスを利用できる可能性があります。
ぜひ参考にして、該当しそうなものは積極的に申請しましょう。
【コラム】私の母も脳梗塞で怒るようになりました
38歳で脳梗塞を発症した母は、買い物に行けば店員の方に怒り出したり、近所の方や親戚などに対しても突然大声をあげ興奮したりと、トラブルを繰り返していました。
そのため、友人や親戚も離れていき、どんどん孤独になっていきます。
しかし、転倒による骨折をきっかけに、デイサービスを利用するようになり、変化がありました。
母の新たな居場所が見つかり、穏やかに過ごせる時間が増えたのです。
また、家族としても、自分の時間ができたことで、本人に優しく対応できるようになりました。
さらに、職員の方が親身になって話を聞いて下さり、家族だけで抱え込まなくてよいと知りました。
この記事を読んでくださった方にはぜひ、家族だけで頑張り過ぎず、支援制度に頼ってほしいと思います。
まとめ:早めにリハビリを取り入れ、新しい習慣を身につけましょう
脳梗塞で怒りっぽくなるのは「高次脳機能障害の社会的行動障害」による症状です。
早めのリハビリで改善が見込める場合もあるため、怒りっぽくなったと感じたら、早めに主治医に相談しましょう。
脳梗塞で怒りっぽくなった家族への対処法は以下の6つです。
- 怒ってしまう原因に近づけないように工夫する
- 曖昧な表現をしない
- 思いを受け止めつつ、不適切な部分ははっきり指摘する
- 見通しを立てやすいようにする
- 信頼できる第三者をつくる
- 安全を確認のうえ、適度に距離を置くことも大切
脳梗塞の後遺症は高次脳機能障害だけでなく、言語障害や麻痺、嚥下障害など、さまざまな障害が複雑に絡まっています。
そのため、怒っている原因を突き止めるのが難しい場合も多いでしょう。
関わることが圧倒的に多い家族の負担は、多大なものです。
活用できる支援は積極的に活用し、本人・家族が無理なく、バランスのとれた生活が送れることを願っています。